梅毒検査結果の読み方を解説します
こんにちは。皮膚科医ボブです。
このブログは医師による副業をメインコンテンツにしていますが、サブコンテンツとして皮膚科情報も扱っています。
皮膚科以外の診療科の先生や研修医の先生方に役立ててもらえると嬉しいと思っています。
さて、今日のテーマは【梅毒検査結果の読み方】です。
梅毒は何科で診ていますか?
普段梅毒の診察に携わらない診療科の先生だと、手術前や免疫抑制薬使用前の感染症スクリーニング血液検査の際にしか出会わないという方も多いと思います。
仮にご自身の担当患者さんに梅毒が疑われた際、どう対応されていますでしょうか?
ご存知の通り梅毒は性感染症ですが、どの診療科の医師が診察するのか明確には定まっていません。
都会だと性病を全般的に扱う医院が性病科とか標榜してたりもしますが、中心部以外の地域では泌尿器科や皮膚科、感染症科、場合によっては総合診療科などが診察に当たることが多いかと思います。
この住み分けは施設によっても結構違います。
初期研修の先生や、後期研修中などで出向が多い先生方からすると、勤務先によって対応が異なるのも戸惑いますよね。
まずは検査結果の読み方を理解しておくとコンサルト必要性の判断にも役立つため、今日はそこらへんを解説していきたいと思います。
梅毒検査 項目の読み方
梅毒の検査項目を読むにはまず、以下の解釈表を理解しましょう。
検査内容は大別すると
- 梅毒トレポネーマに対する特異抗体を測定する方法:TP抗体検査法
- カルジオリピンに対する特異抗体を測定する方法:STS法
の2種類に分類できます。
それを踏まえ、以下の表をみてみましょう。
(ここでは一旦、TP抗体検査法=TPHAだと思って読んでください。)
STS | TPHA | 解釈 | 対策 |
ー | ー | 非梅毒or梅毒感染直後 | 感染が疑わしければ数週後に再検査 |
ー | + | 治療後の梅毒 | FTA-ABSで確認 |
+ | ー | 梅毒感染初期or生物学的偽陽性(BFP) | 数週間後の再検査とFTA-ABSによる確認orBFP疾患の精査 |
+ | + | 梅毒 | 治療開始 |
そして実際の検査結果はこんな感じです。
・RPR法:陽性 or 陰性
・TP法:陽性 or 陰性

検査結果と表を見比べて、判断するだけなら楽勝だ!
・・・って、あれ?
そう、STSともTPHAとも書いてないことがあるんです!(病院によります)

実は、ここから先の話を知らないと少しわかりにくいんです。
STSとTPHAだけじゃない?
理由は簡単です。
TP抗体検査法にもSTS法にもそれぞれ、数種類ずつの測定方法があり、それぞれが別名で呼ばれているんですね。
横文字や略語が多くて結構分かりにくいですが、それぞれ解説していきます。
梅毒トレポネーマに対する特異抗体を測定する方法:TP抗体検査法
梅毒はそもそも梅毒トレポネーマというスピロヘータ科の細菌が原因となる感染症です。
梅毒トレポネーマに対する特異抗体を測定することで、感染の有無を判定できます。
そんなTP抗体検査法には
- TPHA法(Treponema pallidum hemagglutination test)
- TPLA法(Treponema pallidum latex aggulutination)
- FTA-ABS法(fluorescent treponemal antibody absorption test)
の3種類があります。これは一般名です。
SRLで使用されている項目名だと
- 梅毒定量TPHA(保険請求上の名称:梅毒トレポネーマ抗体半定量)
- 梅毒定性TP抗体〔LA〕(保険請求上の名称:梅毒トレポネーマ抗体定性)
- 梅毒定量TP抗体〔LA〕(保険請求上の名称:梅毒トレポネーマ抗体定量)
- FTA-ABS(保険請求上の名称:梅毒トレポネーマ抗体(FTA-ABS試験)定性)
BMLだと
- TP抗体 半定量(梅毒トレポネーマ抗体)
- TP抗体 定性(梅毒トレポネーマ抗体)
- FTA-ABS法 定性
- FTA-ABS法 半定量
- IgM-FTA・ABS法 定性
こんな感じで、似たような項目がたくさんあります。
厳密には、コスト・検査にかかる時間・結果の意味合いなどが異なるから数種類に分けられています。
病院によってオーダーできる検査項目の名称が違うし、メチャクチャわかりにくいんですね。

そこで!
・TP〜系
・FTA-ABS系
TP抗体検査法はこの2種類だと覚えてください!
わかりにくいので、とりあえずここではこの2種類に分類しておきます。
カルジオリピンに対する特異抗体を測定する方法:STS(serologic test for syphilis)法
次にSTS法について説明します。
そもそもカルジオリピンとは、ウシの心臓からアルコール抽出にて得られるリン脂質です。
梅毒トレポネーマの細胞膜もリン脂質を含むため、カルジオリピンに対する特異抗体が上昇していれば梅毒トレポネーマに対する抗体を持つのと同義と考えられます。
ちなみにSTS法では主にIgMが反応するため、梅毒感染後2~5週で陽性となり、治癒後は陰性化します。
そしてカルジオリピンはトレポネーマに特異的な物質ではありません。
当然STS法は梅毒に特異的ではなく炎症性疾患・自己免疫性疾患・妊娠などでも陽性を示すことがあり、生物学的偽陽性(BFP)と呼ばれます。
STS法という名称は抗カルジオリピン抗体を測定する手法全ての総称で、手技的な違いにより
- ワッセルマン反応
- ガラス板法
- RPR法
- 凝集法
- 緒方法
などがあります。

また、たくさん出てきた・・・。
先ほどと同様にSRLで使用されている項目名は
- 梅毒定性RPR〔LA〕
- 梅毒定量RPR〔LA〕
- 梅毒定量RPR法
BMLでは
- RPR法 定性
- RPR法 半定量
ワッセルマンやらなんやらと言いましたが、主要2検査会社の項目を見ても分かるように
現時点ではSTS法=RPRと考えて良いと思います。

・STS法=RPR系!
TP抗体検査法:TP〜系・FTA-ABS系
STS法:RPR系
ここでようやく先ほどの表に戻ります。
梅毒の検査は、感度・特異度・迅速性から総合的に考え、RPR法とTPHA法の2つを組合せて判断する方法が主流になっています。
STS | TPHA | 解釈 | 対策 |
ー | ー | 非梅毒・梅毒感染直後 | 疑わしければ数週後に再検査 |
ー | + | 治療後の梅毒 | FTA-ABSで確認 |
+ | ー | 梅毒感染初期・生物学的偽陽性(BFP) | 数週間後の再検査とFTA-ABSによる確認・BFP疾患の精査 |
+ | + | 梅毒 | 治療開始 |
特に感染初期を疑うときはIgM-FTA-ABS法が適しています。
ここまでの話をまとめると
- RPR=STSと思ってOK
- TP〜系=TPHAと思ってOK
- FTA-ABS系は最終判断に用いる検査のため、スクリーニングには不要。
となるわけです。
以上で、検査結果の読み方はバッチリです!
まとめ
というわけで、検査結果の読み方の説明は以上です。
今度は梅毒の診断時に必要な書類や、治療時の注意点についてお話したいと思っています。
それでは今日はこの辺で。
皮膚科医ボブ
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