梅毒の診察に必要不可欠な知識

今回の記事は「梅毒は専門外だけど、梅毒患者さんに対応せざるを得ない医師」を対象に執筆しています。

以前の記事では、梅毒検査の見方について解説しました。

今回はその続きです。日本における梅毒の現状や、治療についてもふれていこうと思います。

梅毒とは

このブログの読者にとっては釈迦に説法かもしれませんが、梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による性感染症です。

梅毒患者の感染部位と、健常者の粘膜や皮膚が直接接触することで感染します。

具体的には、性器と性器、性器と肛門、性器と口、これらが有名な感染経路ですね。

症状や病期については複雑かつ多岐にわたるため、ここでは割愛します。

忘れてしまった先生は、ぜひ一度成書を参照してみてください。

梅毒患者数の推移

梅毒は5類感染症であり、日本国内の梅毒感染者数は感染症法に基づいて調査・報告されています。

そこで実際の数を見てみましょう。

厚生労働省や国立感染症研究所の発表によると、下の図のように近年梅毒感染者数は増加傾向です。

参考:2001-2010年(国立感染症研究所HP)2011年以降(厚生労働省HP)

年齢別では男性において20~50代が、女性では20~30代での感染が増加しています。

さらに、届出がされていない例や未受診例も少なからず存在すると推測され、実際の感染者数はさらに多い可能性があると言われています。

ボブ

梅毒は「以前は落ち着いていたけど、近年また増えてきている感染症」といえますね。

梅毒患者の対応に必要な知識とは?

これまで梅毒患者への対応は、梅毒の治療を行える医師(感染症科医とか、皮膚科医とか)が担ってきました。

しかし近年の梅毒患者増加に伴い、今後は誰もが対応を求められる時代が来るかもしれません。

すでに、専門外だけど自分で治療に当たらざるをえない先生はたくさんいらっしゃると思います。

(※ほとんどの場合、急ぐ必要のない疾患なので、後日紹介すればいいとも思いますが。)

そこで次に、梅毒に対応するために最低限持っておけば良い知識をリストアップします。

順に説明していきましょう。

梅毒発生届の作成と提出(※診断から7日以内)

梅毒を診断したら、7日以内に梅毒発生届を作成し、所轄の保健所に提出しないといけません。

(感染症法に基づく決まり。守らなくとも罰則はありませんが、感染症の流行動態を正確に把握するためぜひ協力したいところです。)

この書類は形式が決まっており、厚生労働省HPからダウンロードできます

そのため発生届の記載項目を念頭に診察を行い、症状の把握・病期の決定・その他の情報聴取を行います。(症状や病期の詳細は成書をご確認ください。)

慣れてないと少し手間取りますが、教科書を確認しながらで良いと思います。

注意点として、梅毒感染者数増加傾向という状況を踏まえ、少し前に届け出の項目が更新されたのでそちらも見ておきましょう。

  • 性風俗の従事歴や利用歴の有無
  • 口腔咽頭病変の有無
  • 妊娠の有無
  • 過去の感染歴(治療歴)の有無
  • HIV感染症の合併の有無
ボブ

ここら辺のことを細かく聞かなきゃならないのは、少し気を使いますね。

まぁ分からない部分は「不詳」で提出しても大丈夫です。

けど、せっかく集めてるんだから情報として精度を高めた方がいいとは思います。

治療開始時の注意事項

梅毒は細菌感染ですので、抗菌薬で加療します。

第一選択はペニシリン系です。

代替薬としてテトラサイクリンやセフトリアキソンでもOKです。(参照:マップでわかる 抗菌薬ポケットブック 南江堂)

処方例:

1)サワシリンカプセル(250mg)6カプセル 分3  
2)ケフラールカプセル(250mg)6カプセル 分3(保険適用外)     (参照:今日の皮膚疾患治療方針 医学書院)

治療は内服薬でOKですが、病期により投与期間は異なります。

  • 第1期梅毒:2週間
  • 第2期梅毒:4週間
  • 第3期梅毒:8週間

このように、病期が進行するほど治療期間も長くなります。

感染後1年以上経過している際には4週間投与を2−3クール繰り返す必要があることもあるくらいです。

また、抗菌薬開始時のJarisch-Herxheimer(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー)反応について説明しておくことも大切です。

これは抗菌薬にて死滅した菌体に対する生体反応で、高熱や発疹が生じるというものです。

治療開始直後から数日以内に生じることがあるため、治療開始前に必ず説明しましょう

治療効果判定の方法

1ヶ月ごとに検査して抗体の推移を測定します。

治癒の目安としては

RPRが8倍相当以下もしくはRPRが治療開始時の1/4以下まで低下することを目標として治療を行いましょう。 

患者の家族やパートナーを守るための注意喚起

基本的に性行為で感染するため、性的なパートナーに関しては検査が必要です。

受診を促し、必要であれば治療を開始します。

性行為以外の日常生活での感染は通常起こさないため、性的なパートナー以外の検査は不要です。

(あまりないケースかもしれませんが、傷だらけの手で家族の傷の処置をしているなど、血液や粘膜が直接触れ合う行為があるならば検査も検討して良いと思います。)

治癒するまでは当然、オーラルセックスを含めて性行為は極力行わない方が無難だと思います。

まとめ

参考になったでしょうか?

梅毒は近年また増加してきているため注意が必要ですが、治療法が確立している為、そこまで怖い病気ではありません

近年の増加傾向を食い止めるためにも、市中への啓蒙・早期発見・適切な治療などの基本に立ち返ることが重要だと考えてます。

私も皮膚科医の端くれとして、精一杯関わっていきたいと思っています。

この記事もその一助になれば幸いです。

それでは今日はこの辺で。

皮膚科医ボブ

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Posted by ボブ